梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その44|屋根のそりを「たるみ」と呼ぶわけ
これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。
屋根のそりを「たるみ」と呼ぶわけ
宮大工、西岡棟梁の話です。
社寺の屋根は先端に行くほど下がっていますが、直線的ではなく、弧を描いて反っています。この「そり」を、「たるみ」というそうです。
たるみと呼ぶ語源は・・・
この軒のそりは、江戸式では、1尺目で1分反って、2尺目で3分反って・・・という具合に計算でできるようになっているそうですが、それでは、かたい感じのものしかできずないのでダメなのだそうです。
この計算に代わって使われるのが、自然の「たるみ」。
糸を垂らし、下を持ち上げると自然の摂理で糸はぐうっとたるみます。それで、定規ではできない柔らかい線がでるとか。寺社に使われている構造や細工は、微妙な弧を描いています。先端が逆に上に反って見えるのはそういうことだったのですね。
竹を割って細い糸のようなものを造り、それをしなわせて曲線を出し、それを図面にするという方法も使われています。
自社の建造物は、古いというだけでなく、周囲の環境に溶け込んで、なんとなく癒されるような心落ち着いた気持ちにしてくれますが、自然の摂理に基づいて構造や形状が決められていて、それが人間の気持ちをいやしてくれるのでしょうね。そういう仕掛けがあったとは自然の力は偉大ですね。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!