梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その70|ウォーキングの聖地絹の道――鑓水峠越えの難路
これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。
ウォーキングの聖地絹の道――鑓水峠越えの難路
横浜に向かう八王子往還の起点は甲州街道(国道20号線)の八日町交差点である。厚木に向かう道を片倉で東に折れて鑓水峠を越え、原町田、川井を経て横浜に向かう。
片倉で曲がらずに御殿峠を越えてゆく道もあるが、鑓水峠を越える道の方が短い。いまの国道16号線・町田街道に沿って多摩丘陵を横断するこの道は、起伏が激しく、人馬が越えることも困難な道だった。
幕末までは、もう少し北の鶴見川に沿って神奈川宿に抜ける道が利用されていたが、その神奈川道に代わってこのルートが利用されるようになったのは、ひとえに、それが最短距離だったためである。
いま、鑓水峠に行く場合、片倉からの登り道は階段になっている。車で行く場合は、先回りして、南側(鑓水)の出口に行き、そこから戻って峠を目指すことになる。
この一帯は、いまは大塚山公園として整備されている。うっそうと木々が茂り、峠の上には、礎石しかないが、当時は立派な堂了堂があった。鑓水商人たちによって、江戸・浅草の花川戸から移し建てられたもので、横浜に向かう道は危険もあり、商人たちは出発前にここに寄って、旅の安全や取引の成功を祈願していったという。
当時は茶店も3軒ほどあって、ここにお参りに来て、お茶を飲むというのが、八王子・鑓水の庶民の楽しみになっていた。鑓水商人の繁栄ぶりを物語る遺跡でもある。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
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