梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その64|むずかしくなった無農薬の桑栽培

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

むずかしくなった無農薬の桑栽培

表 カイコと桑.001

養蚕する回数が少なくなってしまったのにはいくつか理由がある。大きなのは桑を栽培するのうちの環境の変化と、そしてカイコを飼う蚕室の問題。

カイコは、ほぼ30日間桑の葉を食べ、途中、3-10日ごとに脱皮を繰り返して成長する。4回の脱皮を経て成虫(ガ)になる前にサナギになるが、このサナギの期間を安全に過ごすために、自分の身体を包むように周囲に糸を吐きだして繭をつくる。生糸を得るためには、カイコの生育をサナギで止め、繭を製糸工場に送って、生糸に紡ぐ。

「カイコは人間が繭を取るために改良を重ねた生き物で、カイコ自身の力ではエサも探せず、生きてゆくことができません。桑の葉を食べて大きくなり、脱皮を繰り返して体重は1万倍に成長しますが、桑の葉もカイコの状態に合わせて、稚蚕の頃は細かく刻んで与えます。人間の手助けがないと生きられないほど繊細なのです」。

カイコは卵から孵化した当初は、大きさも2~3ミリと小さく、それが桑の葉を摂取して3-10日で脱皮する。脱皮するたびに、体重は当初の20倍、120倍、720倍・・・と級数的に大きくなり、サナギになる寸前には約1万倍に増えている。

1頭のカイコは、約20~25グラムの桑の葉を食べる。枚数にして約20枚。カイコが60,000頭とすれば、桑の量は全部で1,500kg=1.5トン、枚数にして120万枚(表)と多い。その量の桑の葉を確保するためにはおよそ10アール(100m×10m)近い桑畑が必要だという。

しかも、「カイコは脱皮直後はちょっとした変化にも傷つきやすくて、農薬が付着している桑の葉を食べれば、それで死んでしまうので虫よけスプレーも使えません。宅地化が進んだ結果、周辺の家庭菜園やガーデニングで農薬を使うケースも増えて、桑を栽培することが難しくなっています」と長田さん。

無農薬が条件で、殺虫スプレーもダメとなれば、八王子で栽培を続けるのは容易ではない。

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
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