梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その62|桑の並木通り
これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。
桑の並木通り
八王子の養蚕、機織は、文政年間(1820年頃)にはすでに知られていたという。1859年に横浜が開港すると、機織業はさらに繁栄した。
群馬や信州、甲州、秩父などの生糸・絹織物を、八王子往還(神奈川道)を経て横浜港へはこぶための中継拠点として重要な役割を果たしたのである。
JR八王子駅北口からまっすぐ浅川大橋に伸びる大通りは、桑の並木通りと名付けられている。
駅から300メートルほど離れた甲州街道との交差点(八王子駅入口)までは両側にマロニエが植えられているが、そこから先、浅川大橋までの400メートルほどは桑の木が街路樹として使われている。桑の街路樹は全国でも珍しい。
甲州街道の交差点から少し先の西側に「桑並木の由来」の碑がある。1954年(昭和29年)、地元に工場をもつ片倉工業㈱から桑の木50数本の寄贈を受け、織物の街の象徴として市や養蚕・製糸・機織関係者らによって植栽されたものだ。
市内で桑が街路樹として植えられているのはここだけだが、小宮、片倉城跡、鑓水などの公園にも桑の木が植えられていて、養蚕・機織の街の伝統を伝えている。
50数本植えられた桑の木は、現在36本が残されていて、排気ガスなどをものともせずに道行く人に緑を提供している。植えられてから60年、欠けているところもあるが、この樹勢をみる限り、街路樹としての適性もあるのではないかと思える。せっかく桑都と称するならば、駅近くのマロニエも、桑に代えてはどうだろうか。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
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