梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その51|飛鳥工人のカン・コツは生まれながら?
これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。
飛鳥工人のカン・コツは生まれながら?
法隆寺や薬師寺、唐招提寺などに使われているのはヒノキです。多くの木材の中でヒノキの1000年を超える耐久性を見つけ、1000年を持たせる工法の工夫など、どれも、科学的な分析技術もない700年頃の工人たちは、どうやって発見したのでしょうか。
宮大工の棟梁として文化功労者に選ばれた西岡常一棟梁は、私たちは先人のまねをしているだけ。総合力は当時の棟梁の足元にも及ばない……と言っています。
どうやって、1300年前の工人たちが、こうしたコツを見つけ出したのか、それはいまだになぞです。すくなくとも、現代の私たちが無くしてしまっている何かを彼等が持っていたことは間違いありません。
それはいったい何で、どうやって身に着けたものなのでしょうか。生まれながらに備えていた、いわば動物的な感性とでもいうものなのでしょうか。
科学技術を発展させ、便利にすることで私たちが失ってしまったものは、想像以上に大きいかもしれません。これは、人間にとって果たして進歩なのでしょうか。私たちは幸せな未来に向かっているのでしょうか、それとも終末に向かって急いでいるでしょうか。
かつて工場では、匠がカンコツを発揮して質の高い仕事をしてきました。しかし、1970年代から80年代にかけて、コンピュータの活用とともに、そうした俗人的な五感をベースにした暗黙知は標準化の妨げになるとして、数値化された作業標準に置き換えられるようになりました。
こうして多くの工場で新しい作業標準やマニュアルが作られましたが、何年か試行錯誤の末、結局、それでは技術は伝承できないということが分かり、カン、コツそのものを基準として、新たな技能伝承の仕組みが作られるようになりました。
デジタル化が進んだ現在も、現場ではそうした技能伝承と人材育成が続けられています。コンピュータの活用によって、工場環境は大きく変わりました。何でもデジタル化という流れの中で、こうしてアナログの持つ意味が見直されるというのは、さすがに”ものづくり強国日本”というべきでしょう。
私たちのものづくりの底に流れている通奏低音は健在、日本のものづくり、まだまだ捨てたものではありません。
とはいえ、デジタル技術はさらに進化を続けています。ioTに向けて、アナログとデジタルの融合は当たらな局面に突入したと言っていいでしょう。
しかし、カン・コツ自体が一朝一夕で解明されるものではないので、カン・コツを科学的に証明し、デジタル化することは今後の大きな課題と言えるでしょう。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!