梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その17|桐生/足利に見るものづくり遺産の残し方(2)<旧桐生高等染織学校関連施設(現:群馬大学工学部同窓記念会館)>
これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。
桐生/足利に見るものづくり遺産の残し方(2)<旧桐生高等染織学校関連施設(現:群馬大学工学部同窓記念会館)>
桐生の旧市街の北にある天満宮から、道なりに北に進むと、すぐに群馬大学工学部の入り口があります。かわいらしい守衛所があり、守衛さんがいるので、「同窓記念会館を拝見させてください」と断って入りましょう。
群馬大学の同窓会記念会館は、大正4年に建造、5年に開校された旧桐生高等染織学校の本館と講堂で、1972(昭和47)年に現在の場所に移転・復元されたものです。同校は、色染化学、紡織、応用科学の3学科を持った県内唯一の実業専門学校として開校しました。その後、昭和9年に機械科と電気科を増設して桐生高等工業学校と改称し、戦後、群馬大学工学部となりました。田口メソッドで知られる田口玄一さんは、1942年に桐生高等染織学校紡織別科の卒業生です。
構内を入ってすぐ左手に群馬大学工学部同窓記念会館がありますが、その前に守衛所を見ておきましょう。こじんまりとした木造平屋建てですが、あなどってはいけません。この建物も、大正5年に作られた旧桐生高等染織学校の門衛所で、構造は本館と同じ。小さいだけに、メルヘンチックで学生や市民にもなかなかの人気なのです。
本館と講堂は、木造総2階建て、下見板張りペンキ塗で木骨を外に出しています。中には当時の椅子や机も残り、大正時代の雰囲気を残しています。
天井は壁から出た梁の上にさらに梁が乗るハンマービームと呼ばれる左右対称の構造で、教会のような雰囲気をかもし出しています。建物は保存もよく、最近では「花子とアン」でも、花子が入学した学校のシーンなどに使われていて、その重厚な雰囲気は、明治時代にタイムスリップさせてくれます。講堂の正門は、煉瓦造りの門柱上部四面にゴシック風の柱頭飾りがあり、歴史を感じさせます。
日本の特徴は、産業が発達すると学校を作る点にあります。ねらいは研究開発と後進の育成で、産業人が成功を享受するだけでなく、次の世代の育成を心掛けるのです。教育をいかに重視しているかは、重厚な学校の作りを見ても分かります。ものづくりの人間として守るべき伝統のひとつでもあります。
講堂の内部。落ち着いた雰囲気で、使われていた時代がしのばれます。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!