梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その15|日本の技術力--技能と工芸
これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。
日本の技術力--技能と工芸
黒船で日本にやってきたマシュー・ペリーは、帰国後に、アメリカで日本遠征記という報告書を書いています。
そのなかの「日本人が一度文明世界の過去及び現在の技能を所有したならば、強力な競争者として、将来の機械工業の成功を目指す競争に加はるだらう」の一節はよく知られるところですが(「日本遠征記」ⅳ)、わずかな滞在日数で、見抜いた慧眼には感服します。
どこでこんなことを見抜いたのかと、気になりますが、実はよく見ると、日常生活の中にも、そうしたことを予測できるような出来事がたくさんあり、下船した乗組員からもそうした話を聞いたりしていたようです。
動物学者で標本採集に来日して大森貝塚を発見したエドワード・モースも、日本人の自然や作られたものに対する愛情や感性の違いについて、「洗練された細工が大きな都会の家屋だけにあったり、名の知れた作家によるものであったりするだけではなく、小さな農村の民家の中の小さな家具や道具についても、ひとつ一つの細部に、神が宿るような細やかな神経が注がれている」と驚いています(「日本のすまい 内と外」)。
ペリーも、モースも、日本人のものをつくるという技能だけでなく、作られたものの扱い方、ものに対する愛情の持ち方、さらにはものをつくることを通して構築された文化や様式に秘められた背景をしっかりと見抜いています。
ご紹介してきた富岡製糸場を16か月で完成させたプロジェクト推進力もそうですが、繰糸器械の操作技術を習得し、1日に4升しか糸を繰れなかったところを、改善を重ねて8升と短期間で生産性を2倍に向上させた工女たちの処理能力の高さなど、このプロセスを近くで見てきたフランス人技術者たちには、新鮮な驚きだったのではないかと思います。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!