梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その14|社会が環境を変え、環境が社会を変える
これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。
社会が環境を変え、環境が社会を変える
明治から昭和10年ころまで、生糸は日本の主要産業の一つで、輸出の90%近くを占めた時期もありました。日本の近代化は、生糸貿易によって獲得した外貨で進められたと言っても過言ではありません。
しかし、いまでは養蚕業はほとんどなくなりました。かつて桑都と呼ばれ、さかんに養蚕が行なわれた八王子でも養蚕農家として残っているのはわずか3軒、生産量も、かつてとは比較にならないほど微量です。
養蚕農家として、もっと生産したいが、環境が許されない・・・といいます。
カイコは生まれたときは2-3グラムと小さいが、桑の葉を摂取して、脱皮を繰り返し、繭を作る段階では体重は約1万倍に増えます。エサは「桑の葉」で、1頭のカイコが食べる量は20~25g。かつての生産量を確保するためには、大量の桑の葉が必要で、そのための桑畑は広大な面積になると言います。
養蚕で飼育するカイコは、人がそのために改良した新種で、自力で生きることは出来ないほど繊細で、農薬・殺虫剤を吸収すれば死んでしまいます。
毎日の給餌なので、桑畑は人家近くが必要ですが、排ガス・農薬・殺虫剤のない桑畑を用意するのは、八王子では不可能……というわけです。
社会が環境を変え、環境が社会を変えていくのですが、これがプラスのスパイラルに働いて人々が豊かになって、幸せに暮らせる方向に進んでくれればいいのですが、もしかすると、マイナスのスパイラルに働いて破滅の方向に向かって進んでいるのではないか・・・そんなことも気になります。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!