梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その5|日本のものづくりはどこを目指す?

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

日本のものづくりはどこを目指す?

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「日本のものづくりはダメ」そんなことが大きな活字で報道されたりしています。

ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われ、自他ともに世界一と言われた電気製品は、いまや世界の市場でシェアを落とし、浮上する兆しも見えません。

ITの発達によって技術ノウハウがソフト化されたことで、日本が強みとしてきた摺り合わせ技術の優位性が、ボリュームゾーンの製品で失われてしまった結果です。

こうしたことから、日本におけるものづくり技術はガラパゴス化していると言われたりしています。本当に日本のものづくりはダメなのでしょうか。私たちはそうは思いません。

 ものづくりの問題よりもむしろ、高度なものづくりや創造力がありながら、それを活かせないマネジメントの問題というべきでしょう。

アメリカの産業は、ものづくりから離れた代わりに、先端の技術開発、ソフトウエア、金融工学……に特化し、リーダーシップを保とうとしています。

残念ながら、日本が同じ土俵で勝負できるとは思えません。実体のない、予測や将来の変動リスクを取引のタネにするという発想は、日本人からはなかなか生まれないのではないかと思います。

となると、日本独自に、将来の方向を見つけ出す必要があります。世界市場でそれなりの位置を確保し、将来に向けて、先端を走り続けるためには、日本の産業はどこをめざすべきなのでしょうか。

同じようにものづくりでの立国を目指しているドイツでは、第四次産業革命として、インダストリー4・0(Industrie4.0)を政府主導で進めています。

自在なものづくりを構築することでドイツの強さを築き上げようとするもので、その基本は、サイバー・フィジカル・プロダクション・システム、つまり、ITとものづくりを統合して、国ぐるみで自在な生産を可能にしようという壮大な試みです。

目標は二〇二五年、産業界をあげてノウハウを蓄積しようと、そのための規格・標準づくりが始められています。

日本は明治以来、西欧科学技術を取り入れてものづくりを発展させてきました。

その始まりは、わずか一五〇年ほど前のことにすぎませんが、前提となる「もの」を「つくる」という行為・意識に関して言えば、日本人の歴史、伝統、文化を前提に独自の発展を遂げたものだということができます。

 日本の文化は、西欧の人々にとって、異なる価値観を持っています。日本が西欧との交流の窓口を開いて一五〇年、お互いを理解するまでの多くの苦難の歴史と、交流の積み重ねを経て、西欧の人々に私たちが持つ文化が、少しずつ理解され、新しい刺激として受け入れられ始めています。

この刺激は、新たな価値観として、西欧の人々に、新しい生活と文化を提案するようになっています。

今後、最終的な製品が高度になればなるほど、同時に、それを支えるものづくりにも高度な技術が求められるようになります。

そうしたときに、求められる高い精度の緻密な技術を誰が保証するのか、現状では日本を置いて考えられません。

「未来は過去の中にある」――といわれます。

未来に向けて日本のものづくりはどうあるべきか、そして私たちは何をするべきか、それを考えるよすがとして、私たちのものづくりの強さの源泉を、もう一度確認してみる必要が有るような気がします。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中