梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その40|<薬師寺・法隆寺>(5) 恐るべし――飛鳥の仏師の知恵
これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。
<薬師寺・法隆寺>(5) 恐るべし――飛鳥の仏師の知恵
近くのものは大きく見え、遠くにあるものは小さく見えるというのは遠近法です。この遠近法がいつ頃から日本で使われ出したのか、明確には分からないようです。
日本の美術は遠近法や光と影を無視するとよく言われ、ペリーの遠征記にも、日本の絵画の中に遠近法を使ったものがあることを発見して驚いているという一節があります。遠近法は近代科学の産物と考えられていたのですね。
欧米人にとっては、それまで知っていた日本の絵画といえば平面画の浮世絵ですから、驚いたというのは無理もないかもしれません。
遠近法でよく知られているのは竜安寺の石庭です。 1450年に創建された臨済宗妙心寺派の禅苑の名刹です。枯山水の庭が特によく知られていますが、その庭は、25m×10mほどで、およそ80坪ほどの広さです。現代で言えば、小さな25mプールくらいの大きさで、小さな家2軒分です。 しかし、訪れた観光客は、もっと広く見えると言います。
大きく見える秘密は、庭を囲む油土塀と石の配置にあり、塀は庭の奥に行くほど高さが低くなっていて、高低差は最大50センチ、石は近いほど大きな石浜が置かれ、遠くなると小さな石が置かれているそうです。
方丈から見ると、手前が高く、奥が低くなっているために、遠近法のトリックで庭が実際より広く見えるように設計されているそうです。
昭和の仏師・松久朋琳師が、薬師寺の薬師如来を実測させてもらったときに、なんと、組んだ足が小さく作られていることを発見して驚いたそうです。
高さが2.5メートルほどの薬師如来を拝観する場合、ふつうは前に正座して下から見上げることになります。その際にバランスよく見えるようにするために、あえて結跏趺坐している足を小さく作ったのではないかと書いています。
絵を描写する際に、遠近法で描くのはありうることですが、人が見たときの視点で、わざわざ遠近法を想定して、正しく見えるように工夫する、いわば遠近法を逆手に取った応用です。かなり高度な技と言えるでしょう。竜安寺のできた1450年頃にはわかるとして薬師寺ができて700年頃に遠近法が活用されていたとは、驚きでもあります。
1300年前の仏師の知恵――恐るべしです。
画像は薬師如来像が設置されている、再建された薬師寺金堂
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
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