梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その36|<薬師寺・法隆寺>(1) 屋根を支える複雑な二手先斗栱組のなぞ

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

<薬師寺・法隆寺>(1) 屋根を支える複雑な二手先斗栱組のなぞ

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ものづくりの世界では、剛性とかレジリエンスとかが重視され、しっかり安定的に稼働する設備が求められます。不安定の最大の要因は、結合具にありますから、できるだけ結合部を減らして一体化し、固定するというのが、精度を上げ剛性を高める一つの工学常識です。

そんな剛性論に対して、まったく逆の立場をとるのが築後1300年を経てなお健在な法隆寺や薬師寺です。

丈夫に・・・というと、鉄とコンクリートで固めようとするのですが、逆に、揺れや振動には、がっちりと固定してしまうコンクリートはもろい。そのため補強に、柔軟性のある鉄を入れて、鉄筋コンクリートにしているのですが、実は鉄も錆びるという弱点を持っています。だから、千年というスパンで考えると万全ではありません。

寺院建築を見ると、屋根は複雑な構造の上に載っています。柱の上に二手先斗栱組と呼ばれる構造物を入れて、横木、屋根を支えているのです。

複雑な構造が組み合わされているのですが、薬師寺を改築したときに、それがどのような意味をもってなされているのか、現代科学をもってしても解明できなかったというのです。西岡棟梁は、当時建築した棟梁の技に感心し、「ただ真似をするしかなかった」と述懐しています。

そして、真似をして作っていくうちに、その意味が一つずつ、薄皮がはがれるように明らかになっていく。先人の技の奥行きの凄さに圧倒されたそうです。

法隆寺の五重塔や薬師寺の東塔は、幾多の地震にも倒れずにいます。その秘密は、木造の接合具がもつ隙間が地震に耐えるポイントだと喝破したのは西岡常一棟梁です。固定するよりも、遊びで振動を吸収するということですね。この発想は、いまでは耐震ゴムに活かされています。

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!